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大阪地方裁判所 昭和61年(ワ)5835号 判決

原告

寺尾直美

被告

小林毅

ほか二名

主文

一  被告小林毅及び同小林正卓は各自、原告に対し、金七〇万三一三〇円及びこれに対する昭和五八年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告日新火災海上保険株式会社は、原告に対し、原告と被告小林毅及び同小林正卓の双方又はいずれか一方との間の本判決が確定したときは、金七〇万三一三〇円及びこれに対する昭和五八年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを七分し、その六を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

五  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し、金四八三万六一四七円及びこれに対する昭和五八年一二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和五八年一二月二七日午後一一時三〇分頃

(二) 場所 大阪市鶴見区諸口町六丁目先路上

(三) 加害車 被告小林毅(以下「被告毅」という。)運転の小型乗用自動車(大阪五二ま二三〇七号)

(四) 被害者 原告(当時二一歳)

(五) 態様 原告が加害車の屋根に右手をかけて話をしようとした際に、被告毅が急に加害車を発進させ、原告をひきずつて負傷させた。

2  責任原因

被告らは、次のとおりの理由により、本件事故による原告の損害を賠償すべき義務を負う。

(一) 運行供用者責任(自賠法三条)

被告小林正卓(以下「被告正卓」という。)は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。

(二) 一般不法行為責任(民法七〇九条)

被告毅は、加害車を停車させて、車外の原告と話し合いをしていたが、物別れとなつてドアをロツクしたため、原告がドアをたたき、右手で加害車の屋根に手をかけた途端、被告毅が加害車を急発進させたため、原告が思わず加害車から手を離すことができず、数メートルひきずられ振り落とされて負傷したものであつて、被告毅は、左側方の安全を確認することなく加害車を急発進させた過失により、本件事故を発生させた。

(三) 自家用自動車保険契約による賠償責任

被告日新火災海上保険株式会社(以下「被告会社」という。)は、昭和五八年七月一九日被告毅との間で、加害車を被保険自動車、被告毅を記名被保険者とし、対人賠償を内容とする自家用自動車保険契約(以下「本件契約」という。)を締結していた。

3  損害

原告は、本件事故により受傷し、次のとおりの損害を被つた。

(一) 原告の受傷等

(1) 受傷

左内側半月板損傷の疑い、右膝内障、顔面・両手・両下腿打撲傷及び擦過傷、切歯損傷、左肘部痛、頚部痛、頭痛、顎関節症、顔面正中打撲、上顎前歯牙脱臼及び打撲、歯槽骨骨折、歯牙破折、歯牙提出、Puエシ、歯根破折の疑い、上顎骨体部圧痛、左側下顎臼歯部咬合痛、開口時疼痛

(2) 治療経過

宮本記念病院

昭和五八年一二月二八日から昭和六〇年五月二日まで(入院七六日、実通院一九三日)

大住歯科医院

昭和五九年一月一七日から同年四月一二日まで(実通院一九日)

近畿大学医学部附属病院(以下「近大病院」という。)

昭和五九年四月二三日から昭和六〇年六月三日まで(入院一五日、実通院二日)

大阪歯科大学附属病院(以下「大歯大病院」という。)

昭和五九年一月二六日から現在まで

(3) 後遺障害

右膝関節痛(自賠責保険後遺障害別等級表一四級一〇号認定ずみ)頚部痛・頭痛・口腔部痛(同一四級一〇号認定ずみ)、上前歯歯牙破折、歯牙脱臼、歯牙動揺、開閉口路顎関節部疼痛、外傷性顎関節症

(二) 治療関係費

(1) 治療費 九三万九二八二円

(2) 入院雑費 九万一〇〇〇円

入院中一日一〇〇〇円の割合による九一日分

(三) 逸失利益

(1) 休業損害 二八四万六五六四円

原告は、本件事故当時、一か月一二万三〇〇〇円の収入と年二回六万円の賞与を得ていたが、本件事故により、昭和五八年一二月二八日から六五一日間休業を余儀なくされ、その間二八四万六五六四円の収入を失つた。

(計算式)

(123,000×12+60,000×2)÷365×651=2,846,564

(2) 後遺障害による逸失利益 一四万八五〇八円

原告は、前記後遺障害のため、二年間、その労働能力を五%喪失したものであるから、原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一四万八五〇八円となる。

(計算式)

1,596,000×0.05×1.861=148,507

(四) 慰藉料

(1) 入通院分 一五〇万円

(2) 後遺障害分 一〇〇万円

(五) 弁護士費用 四〇万円

(六) 損害額合計 六九二万五三五四円

4  損害の填補

原告は、本件事故による損害につき、次のとおり支払を受けた。

(一) 自賠責保険金として七五万円

(二) 被告から一三三万九二〇七円

5  本訴請求

よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は本件事故発生の日である昭和五八年一二月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による。)を求める。

二  請求原因に対する認否

1  被告毅及び同正卓(以下「被告小林ら」という。)

(一) 請求原因1の(一)ないし(三)は認めるが、(四)及び(五)は不知。

(二) 同2の(一)の内、被告正卓が加害車の所有者であることは認めるが、その余は否認する。(二)は否認する。

(三) 同3は不知。

(四) 同4は認める。

2  被告会社

(一) 請求原因1の(一)ないし(五)は認める。

(二) 同2の(一)の内、被告正卓が加害車の所有者であることは認めるが、その余は不知。(二)は不知。(三)は認める。

(三) 同3は不知。

但し、原告が、右膝関節痛及び顔面打撲による頚部痛・頭痛・口腔部痛につき、それぞれ自賠責保険において一四級一〇号の後遺障害の認定を受けていることは認める。

(四) 同4は認める。

三  抗弁

1  免責(被告会社)

本件事故は、原告が右手で加害車の屋根の後部キヤリア(スキー等を搭載する荷台)の枠をつかみ、左手で助手席ドアの把手を持つて開扉しようとしたところ、被告毅がロツクしていて開かず、その直後同被告が加害車を急発進させたため、原告は驚いて「停めて」と大声で叫びながら、左手で窓ガラスを懸命にたたいたが、加害車は停車するどころか加速を続け、右手一本でキヤリアにつかまる原告を二〇メートル以上引きずつて振りほどき、転倒させたものである。

本件契約における普通保険約款第一章賠償責任条項第七条において、保険者は保険契約者、記名被保険者の故意によつて生じた損害を填補しない旨定められているが、本件事故状況から、被告毅は加害車をそのまま発進加速させれば、キヤリアにつかまる原告になんらかの傷害を与えるかもしれないことを十分認識しながら、それもやむを得ないと認容して、あえて発進、加速し続けたのであつて、被告毅には原告の傷害に対する故意がみとめられるから、被告会社は、右免責条項に基づき、本件事故により被告毅が負担した損害賠償責任に関し、その填補責任を負わない。

2  過失相殺(被告ら)

本件事故の発生については、原告においても、被告毅が加害車を発進させかねないことは当然予見できたはずであり、また加害車の発進時に後部キヤリアを握つていたとしても、早期に手を離せば本件事故は避けられたものであるから、原告の過失は大きく、原告の損害賠償額の算定にあたつては過失相殺により少なくとも五割減額されるべきである。

3  損害の填補(被告ら)

本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、次のとおりの支払がなされている。

(一) 被告正卓から六九万九五八二円

(二) 自賠責保険から三五万八六一七円

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は争う。

被告毅には、原告がキヤリアにつかまつていることについての認識がなかつたものであり、故意は認められない。

2  同2は争う。

3  同3は否認する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録と同一であるから、これを引用する。

理由

一  交通事故の発生

請求原因1の(一)ないし(三)の事実は、当事者間に争いがなく、同(四)及び(五)の事実については後記二の2で認定するとおりである(原告と被告会社との間では争いがない。)。

二  責任原因

1  運行供用者責任

請求原因2の(一)の内、被告正卓が加害車を所有していたことについては、当事者間に争いがなく、これによれば、同被告が加害車を自己のために運行の用に供していたことを推認できるから、同被告は自賠法三条により、本件事故による原告の受傷に伴う損害を賠償する責任がある。

2  一般不法行為責任

原告本人尋問の結果及びこれにより真正な成立が認められる甲第二号証(原告と被告小林らとの間では成立につき争いがない。)、被告毅の本人尋問の結果(後記の採用しない部分を除く。)及びこれにより真正な成立が認められる丙第二ないし第四号証、被告毅が昭和五九年五月半ば頃加害車を撮影した写真であることにつき当事者間で争いのない検乙第一ないし第四号証によれば、次のとおりの事実を認めることができ、被告毅の本人尋問の結果中の右認定に反する部分については、前掲各証拠に照らして採用し得えず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(一)  原告と被告毅は、一年半前頃から交際し結婚の約束を交わす仲であつたが、本件事故当日の夜口喧嘩の末別れ話となり、ペアで作つて持つていた指輪を被告毅が原告に返すことになり、同被告は、自宅から右指輪を持ち出して加害車(昭和五三年式ホンダアコード、スリードア、屋根に二本のキヤリアが取り付けられており、後部キヤリアはちようどサイドドアの後端の上あたりにあつた。)を運転し、原告方近くの公園の横まできて停車し、電話で原告を呼び出したところ、原告が現れて加害車の助手席に乗り込んできたので右指輪を返したが、その際原告は加害車の後部座席に置かれていた二個のクツシヨンをみつけ、被告毅に対し誰から貰つたものであるかを詰問し、同被告の顔面を数回平手で殴つたうえ、捨てるといつて右クツシヨン二個を左脇に抱えドアを開けて下車したこと。

(二)  原告は、一旦右クツシヨン二個を加害車の助手席の横あたりの道路上に捨てたものの、思い直してこれを拾い左脇に抱えて加害車の中に戻ろうとしたところ、ドアが閉まつており、その上被告毅にすばやくドアをロツクされたため、「開けて」と何回かいいながら、左手で助手席の窓ガラスを三回位たたき、ドアの把手を二、三度ひいたりしたが、被告毅は下をずつと向いたままでドアをあけようとせず、その時原告の右手は加害車の屋根の後部キヤリアをつかんだり、これに手首をひつかけたりしていたこと、

(三)  原告が右手で後部キヤリアをつかんでいた時、加害車が急発進し、原告は思わずキヤリアをつかんだまま二、三歩かけるようにして付いていき、その後足が宙に浮いたため、「停めて」と一回かなり大きな声でいつたが、加害車は減速することなく、原告の右手はキヤリアをつかみ、右脇腹から背中にかけては加害車の車体の左後部にくつついた状態で進行し、発進して数メートル先ですぐ左折して直進したところ、原告の体が電柱に当たりそうになつたため、左折して二〇メートル位進んだ地点で原告はキヤリアから手を離して地面に落下し、負傷したこと。

右認定の事実によれば被告毅には、原告の立つている加害車の左側方の安全を十分確認することなく、加害車を急発進させた過失が認められ、その結果本件事故を発生させたものであるから、同被告は民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。

3  自家用自動車保険契約による賠償責任

請求原因2の(三)の事実は、原告と被告会社との間で争いがない。

そうすると、被告会社は、本件契約の普通保険約款第一章第六条により、被保険者である被告小林らが損害賠償請求権者である原告に対して負担する損害賠償責任額について、被告小林らの双方又はいずれか一方と原告との間で本判決が確定したときは、原告に対し、右損害賠償責任額を支払う義務がある。

三  損害

1  原告の受傷等

成立に争いのない甲第三号証の一、第五号証の一、第七号証、第八号証の一、二、第九号証、丙第七号証並びに原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実が認められる。

原告は、本件事故により受傷し、

(一)  宮本記念病院において、顔面、両手、両膝打撲、擦過傷、右膝内障により、昭和五八年一二月二八日から昭和六〇年五月二日まで通院(実日数一九三日)による治療を受け、うち昭和五九年六月一八日から同年九月一日まで入院(七六日間)による治療を受けたが、昭和六〇年五月二日右膝関節痛(歩行時痛)、左肘部痛、頚部痛、頭痛の症状が固定したと診断されたこと。

(二)  大住歯科医院において、歯牙破折、歯牙脱臼、歯牙提出等により、昭和五九年一月一七日から同年四月一二日まで通院(実日数一九日)による治療を受け、歯冠捕綴を施された上、同日治癒と診断されたこと。

(三)  近大病院において、右膝内障により、昭和五九年四月二三日から昭和六〇年六月三日まで通院(実日数二日)による治療を受け、うち昭和五九年六月四日から同月一八日まで入院(一五日間)による治療を受けたこと。

(四)  大歯大病院において、歯牙破折、外傷性顎関節症等により、昭和五九年一月二六日から昭和六〇年一〇月七日まで通院(実日数五三日)による治療を受けたこと。

(五)  自賠責保険において、右膝関節痛、及び頚部痛・頭痛・口腔部痛につき、それぞれ一四級一〇号の後遺障害の認定を受けた(原告と被告会社との間では争いがない。)が、歯科捕綴について非該当とされたこと。

以上の事実によれば、「原告の本件事故による後遺障害については、右膝関節痛、及び頚部痛・頭痛・口腔部痛の症状が昭和六〇年五月二日頃固定し、右各症状は、それぞれ自賠法施行令別表の後遺障害別等級表の一四級一〇号の「局部に神経症状を残すもの」に該当するとみるのが相当である。」

2  治療関係費

(一)  治療費 八九万四七七八円

成立に争いのない甲第三ないし第五号証の各二、第六号証の二、三、弁論の全趣旨により真正な成立が認められる乙第一号証の一、二によれば、原告は、本件事故による治療費として、宮本記念病院につき三一万四三四〇円、大住歯科医院につき三五万円(甲第四号証の二によれば、三七万〇二一四円で小林殿から受領済となつているが、乙第一号証の一、二によれば、被告小林正卓が同医院に支払つた金額は合計三五万円であり、減額を受けたものと考えられる。)、近大病院につき一三万一三七〇円、大歯大病院につき九万九〇六八円をそれぞれ要したことが認められる。

(二)  入院雑費 九万円

原告が本件事故による受傷のため九〇日間(昭和五九年六月四日から同年九月一日まで)入院したことは、前記認定のとおりであり、右入院期間中一日一〇〇〇円の割合による合計九万円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。

3  逸失利益

(一)  休業損害 一六三万一八六五円

成立に争いのない丙第五、第六号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、「原告は事故当時、美容室「にーと」こと浜上トモ子方に美容師として勤務し、昭和五八年には年間一四四万円の収入を得ていた」が、本件事故により、その頃から右膝関節痛等の後遺障害の症状が固定した昭和六〇年五月二日頃までの約一六か月間休業を余儀なくされ、その間一九二万円の収入を得られる筈であつたところ、右浜上からはそのうち二八万八一三五円の給与の支給を受けただけであり、一六三万一八六五円の収入を失つたことが認められる。

(計算式)

1,440,000 12×16-288,135=1,631,865

(二) 後遺障害による逸失利益 一三万四〇二八円

前記認定の原告の後遺障害の部位、程度及び収入額によれば、原告は前記後遺障害のため、その症状固定時から二年間、その労働能力を五%喪失したものと認められるから、原告の後遺障害による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一三万四〇二八円となる。

(計算式)

1,440,000×0.05×1.8615=134,028

4  慰藉料 二〇〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の内容、程度、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は、入通院分及び後遺障害分を合わせて二〇〇万円とするのが相当である。

5  損害額合計 四七五万〇六七一円

四  免責

被告会社は、本件事故が被告毅の故意により生じたものであるとし、本件契約の普通保険約款第一章第七条による免責を主張するが、被告毅は、原告が加害車の後部キヤリアを右手でつかんで引きずられていたことには気付かなかつたと供述し、前記二の2で認定した事実によれば、加害車の後部キヤリアはその運転席より後ろの屋根のうえに設置されており、しかも原告はこれに右手一本でしがみつき、その体は宙に浮いて後方に流れ加害車の左後部の接着していたことが認められ、運転席の被告毅の位置からは左後方を振り向かない限り、容易には発見できないと考えられるから、同被告の右供述もあながち不合理ともいえず、他に同被告が加害車に引きづられている原告を認識していたと認めるに足りる証拠もない(原告が加害車の発進後かなり大きな声で「停めて」といつたことは認められるが、加害車のエンジン音や窓ガラスが開いていたとは認められないこと等の点を考慮すると、被告毅が当然気付くべきものともいえない。)。従つて、被告毅において、原告に対する傷害の故意を有していたと認めることはできない。

また、前記二の2の事実によれば、被告毅は、原告が加害車の助手席のドアのすぐそばに立つていたことは十分認識したうえ、加害車を急発進したことが認められるから、原告の身体に対する有形力の行使としての暴行の故意は認定することができると考えられるが、本件契約の普通保険約款第一章第七条にいう保険契約者等の「故意」とは、保険事故を発生させることについての故意であると考えられるから、単なる暴行の故意では足りず、傷害の故意を必要とすると解される。

よつて、被告会社の免責の主張には理由がない。

五  過失相殺

前記二の2で認定した事実によれば、本件事故の発生については、原告においても、加害車が急発進した際に後部キヤリアから手を離さずにそのまま引きずられていつた過失が認められるところ、前記認定の被告毅の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の前記損害額合計の二割を減ずるのが相当と認められる。

そうすると、原告の過失相殺後の損害額は三八〇万〇五三六円となる。

六  損害の填補

請求原因4の事実は、当事者間に争いがない。

前掲乙第一号証の一、二、成立に争いのない乙第二ないし第四号証、第六号証の三、第七号証、弁論の全趣旨及びこれにより真正な成立が認められる乙第五号証の一ないし三、第六号証の一、二、四ないし六、第八号証の一ないし七によれば、抗弁3の(一)の事実を認めることができる。

弁論の全趣旨により真正な成立が認められる乙第九号証によれば、抗弁3の(二)の事実を認めることができる。

よつて、原告の前記過失相殺後の損害額から右填補分合計三一四万七四〇六円を差引くと、残損害額は六五万三一三〇円となる。

七  弁護士費用

本件事故の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告小林らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、五万円とするのが相当であると認められる。

八  結論

よつて、被告小林らは各自、原告に対し、七〇万三一三〇円及びこれに対する本件事故発生の日の翌日である昭和五八年一二月二八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、また、被告会社は、原告に対し、原告と被告小林らの双方又はいずれか一方との間の本判決が確定したときは、七〇万三一三〇円及びこれに対する前同様の遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 細井正弘)

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